ペインクリニック外科
特色と治療方針
2022年7月より標榜科として「ペインクリニック外科」が新設されました。手術などで行われる麻酔・神経ブロック技術を応用して、 様々な痛みに関する診療を行っております。従来の「ペインクリニック」に加え、心身共に様々な苦痛を伴う「緩和医療」、出産に 伴う痛みのコントロールとして「無痛分娩(産科麻酔)」を3本柱として痛みにお困りの患者さんのお役に立てればと考えております。
診療内容
ペインクリニック
ペインクリニックの「ペイン」とは痛みという意味で、痛みの診断・治療を専門としている診療科です。 患者さんの体を心臓、肺、肝臓、 腎臓などの部位別に診療するのではなく、「痛み」を中心に診ていく診療科です。痛みは、からだに異常な事態が発生したことを知らせてくれる役割を持っていますが、痛みの原因が明らかになったら、その存在は有害な ものになっていきます。痛みが長びくと不安・不眠に陥ったり、活動意欲の低下などを招き、私たちの生活の質が低下してしまう恐れがあります。
当院では、腰痛、手足の痛み・しびれ、首・肩の痛み、帯状疱疹に伴う痛みなどを中心とした様々な痛みに対して、神経の異常興奮を一時的に 遮断する神経ブロック療法(高周波熱凝固装置使用含む)や薬物療法、電気や光線や超音波、温水・冷水の熱などを利用した物理療法などの様々な 方法を用いて痛みの治療を行っています。
患者さんの痛みを心身ともに軽くして、再び社会の中でいきいきと生活できるように総合的に治療します。
当院では次のような方にペインクリニック受診をお勧めしております。
- 痛みの原因が分かって痛み止めを使ったり、注射をしているが、痛みがなかなか軽くならない方
- 痛みの原因が分かり手術を勧められているが、事情がありすぐには受けられない。まずは痛みだけでもなんとかしてほしい方
- 痛みの原因が分かり手術を勧められているが、年齢・体力などを考えると手術は受けたくない。または他に抱えている病気のため手術ができない。 痛みを軽くして日常生活への支障を減らしたい方
- 痛みの原因が分かって手術したが、痛みがなくならない、または手術後に新たな痛みが発生して困っている方
- 痛みの原因について分かっている。電気治療やマッサージを試しているがなかなか良くならない方
- 痛みの原因について分かっている。痛み止めを飲んでいるがなかなか良くならない、または副作用で痛み止めの内服が継続できない方。
- 根本的に痛みが治らないことは分かっている。それでも痛みを少しでも軽くし、日常生活への支障を減らしたい方
- いろいろな診療科に受診するも、原因不明の痛みがあり困っている方
主な対象疾患
- 全身の痛み:帯状疱疹痛・帯状疱疹後神経痛、癌性疼痛、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、繊維筋痛症、中枢性疼痛、脳卒中後痛、有痛性糖尿病性神経障害、末梢神経障害性疼痛、血行障害性疼痛など
- 頭部・顔面の痛み:片頭痛、群発頭痛、緊張型頭痛、三叉神経痛、舌咽神経痛など
- 頚部・肩の痛み:頚椎症、頚椎椎間板ヘルニア、肩関節周囲炎、肩こりなど
- 胸背部の痛み:肋間神経痛、開胸術後疼痛症候群など
- 腰部・下肢の痛み:腰椎症、腰部脊柱管狭窄症、腰部椎間板ヘルニア、坐骨神経痛、腰椎手術後の腰下肢痛など
- その他:顔面神経麻痺、多汗症など
緩和医療
悪性腫瘍(がん)による痛みには医療用麻薬を使用することが一般的ですが、中には副作用で薬の増量ができない、薬が十分に効かないといった 患者さんが一定の割合で存在します。当院では緩和ケアチームカンファレンスを通じて早期より介入することにより、薬物療法以外に神経ブロック療法 という選択肢をご提案することができます。日々ペインクリニック診療で神経ブロックを修練している担当医により、緩和医療に関する現在日本で 行われているほぼすべての神経ブロック療法・手術を受けることが可能です。患者さんの痛みを多職種と協力して緩和することにより、ご希望に沿った過ごし方ができるようにサポートします。緩和ケアチームのサポートを 希望される場合は、主治医や担当看護師にご相談ください。
無痛分娩(産科麻酔)
- 無痛分娩について
麻酔薬を使用してお産の痛みを軽減させる一つの方法です。当院ではおもに硬膜外鎮痛法(または脊髄くも膜下併用硬膜外麻酔)により、お産の痛みを和らげています。脊髄を覆う硬膜の外側に存在する硬膜外腔に、1㎜未満の細く柔らかいチューブ(カテーテル)を入れて、麻酔薬を投与します。ペインクリニック外科担当医(麻酔科医)は、麻酔の広がり具合が適切で、足の力がしっかりと入り、分娩時に自力で「いきむ」ことができるように、麻酔薬の投与量や濃度を調整します。完全な痛みの消失を目指すのではなく、痛みを制御し、安全に分娩することを目指しています。 - 当科の無痛分娩の理念
「安全・安心を担保し、質の高い分娩時鎮痛を提供する」
関係専門職によるチーム医療により、第一に安全の確保が重要であると考えています。まずは母児の安全を確保し、妊婦さんとそのご家族に安心していただく、その上で質の高い鎮痛法を提供することを目標としております。そのために当院では以下の特徴があります。 - 当院の無痛分娩の特徴
① 麻酔科専門医・指導医、麻酔科標榜医主導による無痛分娩麻酔管理
近年、無痛分娩のニーズは高まっています。しかし、全国的な麻酔科医不足のため、産科医が麻酔管理を兼ねていることも多くあります。当院では、分娩進行を産科医・助産師(看護師)と共有し、分娩進行に沿ったきめ細やかな麻酔管理を行います。麻酔に関する専門的知識があり、普段からペインクリニック診療で神経ブロック(硬膜外鎮痛法)に精通したペインクリニック外科担当医(麻酔科医)が担当することにより、安全と質の高い鎮痛法の提供を目指します。
安全を担保するという当科の理念に則り、現状ではペインクリニック外科担当医(麻酔科医)や助産師の人員配置の関係から無痛分娩の実施は平日日中に限らせていただきます。予定より早く陣痛が来てしまった場合にも可能な限り対応いたしますが、困難な場合もあることをご理解いただきますようお願いします。
②無痛分娩中の定期的なチーム回診
助産師、産科医、麻酔科医が協力して全身状態を観察することができます。急変時の対応もより迅速に行うことが可能になります。
③緊急帝王切開が必要になった場合も直ちに対応を取ることが可能
自然分娩でも無痛分娩でも何らかの理由で緊急帝王切開が必要になることがあります。無痛分娩を施行中の方に緊急帝王切開が必要となった場合、すでにペインクリニック外科担当医(麻酔科医)が硬膜外鎮痛法により麻酔管理を行っておりますので、麻酔効果を確認しながら薬剤調整を行い、速やかに緊急帝王切開のために必要な麻酔を施行することが可能です。 - さいごに
当科では関係専門職との密な連携により無痛分娩を運用しております。最近では全国的に無痛分娩を選択される方が増えています。ご希望の方は、事前に産婦人科担当医師にご相談頂ますようよろしくお願いします。 - 当院の無痛分娩に関する具体的な内容は以下をご覧ください
診療実績
-
ペインクリニック延べ患者数
診療スタッフ
-
小島 康裕
ペインクリニック外科部長
- 専門医・
認定医・
専門分野等 - 麻酔科標榜医
日本麻酔科学会指導医・専門医
日本ペインクリニック学会認定ペインクリニック専門医
日本ペインクリニック学会
インフェクションコントロールドクター(ICD)
臨床研修指導医
無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)カテゴリーA・カテゴリーB講習受講終了
- 略歴
- 浜松医科大学卒
2003年医師免許取得
2011年4月赴任
- 専門医・
-
酒井 博生
医員
- 専門医・
認定医・
専門分野等 - 麻酔科標榜医
日本麻酔科学会認定医・専門医
無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)カテゴリーA・カテゴリーB講習受講終了
臨床研修指導医
- 略歴
- 金沢大学卒
2016年医師免許取得
2023年4月赴任
- 専門医・
-
川口 大地
医員
- 専門医・
認定医・
専門分野等 - 麻酔科標榜医
無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)カテゴリーA・カテゴリーB講習受講終了
- 略歴
- 名古屋大学卒
2018年医師免許取得
2024年4月赴任
- 専門医・
ペインクリニック外科
ペインクリニック外来部長 小島康裕
痛み(ペイン)の診断・治療を専門とするのが「ペインクリニック」です。「痛み」と一言でいっても原因はさまざまであり、市販薬で済ましてしまう人や、整体・鍼灸などに行く人も多く見られます。しかし、早期に「ペインクリニック」の“痛みの専門医”が関わることで、病気の早期発見と適切な治療につなげる可能性が高まります。
そもそも「痛み」ってなに?
「痛み」は誰にとっても辛くてイヤな感覚です。しかし、同時に「痛み」は身体の異常を自覚させ、危険からの回避を伝える危険信号でもあります。「痛み」と一言でいっても我慢できる程度のものから、耐えられないものまでさまざまであり、短時間で現れる急性の痛みもあれば、長期間に痛みが及ぶ慢性的なものもあります。
一般に急性的な痛みは、前述した危険信号の可能性が高いので、早急な対応が求められます。
慢性的な痛みも我慢して放置したり、自己判断で不適切な対応をとると深刻な状況に陥ったり、回復を遅らせる原因となります。何より慢性的な痛みは生活の質を低下させ、心身ともにダメージを与えます。たとえ我慢できたとしても、放置せず適切な対応が求められます。
主な「痛み」の種類
痛みの総合診療科「ペインクリニック」
一般的に病院の診療科は、体の各部位の疾患別に分かれています。これに対して「ペインクリニック」は、「痛み」という症状を入り口にして、多角的に痛みの原因を診断し、専門の診療科と連携して疾患の早期発見・早期治療につなげる総合的な診療科です。また、慢性痛や神経の障害、がんによる痛みなど、治療が難しい痛みについても、他診療科の医師、看護師、薬剤師、理学・作業療法士らとともに連携し、最適な治療を提供します。
一方、総合病院である当院では、日夜さまざまな疾患の手術が行われていますが、多くの手術では術後直後に「術後痛」が伴います。術後痛は体力の回復を遅らせ、スムーズなリハビリを阻害する要因になります。これをやわらげることでより早い術後の回復につなげたり、「がん」に伴う「がん性疼痛」をやわらげることで、患者さんががん治療に前向きに取り組めるようにするのも、ペインクリニックの大きな役割です。ほかにも、ぎっくり腰、片頭痛など、突然、激しい痛みが起る疾患も適切に診断し、早期の治療で痛みを取り除きます。
「ペインクリニック」の主な治療
当院の「ペインクリニック」では、痛みの大きさを客観的に測定できる「ペインビジョン」など、正確な診断を実現するための医療機器を導入して、治療効果の評価をするなど難易度の高い治療にも取り組んでいます。
神経ブロック
薬物療法以外にペインクリニックで行う治療の最も代表的なものが「神経ブロック療法」です。痛みを伝える神経や、自律神経、運動神経の機能を一時的もしくは長期間にわたり停止させることで、痛みを軽減するものです。
高周波熱凝固
局所麻酔薬やステロイド剤を使用した神経ブロックでは痛みがすぐ戻ってしまう場合は、高周波電流を流して熱で痛みの信号を遮断する「高周波熱凝固」という治療法も行っています。これだと遮断された神経が再生するまで、長期間にわたって痛みを抑えることができます。
経皮的髄核摘出術
椎間板ヘルニアなどの痛みを伴う代表的な疾患の治療法として、昨年から開始しました。特殊な機器を用いてヘルニアのある椎間板に針を刺して椎間板の一部(髄核)を吸引して取ったり、焼灼するもので、術後の合併症のリスクがほとんどなく、身体的な侵襲も少ないのが特長です。
脊髄刺激療法
脊柱管狭窄症をはじめ慢性的で難治性の痛みに対して行う治療法で、脊髄に微弱な電流を流して痛みの信号を脳に伝えにくくすることで、痛みをやわらげます。西三河エリアで採用している医療施設は当院のみです。(2020年10月現在)
硬膜外腔癒着剥離術
椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など、頸部痛や腰痛、上肢や下肢のしびれを伴う疾患に対して、「硬膜外腔」というところに特殊なカテーテルを入れて癒着を剥離する手術です。
高齢化の進展に伴い、痛みを抱える生活を送る人も増加し続けています。歳のせいだから仕方ないと我慢してしまい、「痛み」が教えてくれる隠れた病気を見逃さないよう、早期受診で適切な対応を心掛けてください。