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地域医療の真ん中に

DOCTOR'S INTERVIEW

心臓および大血管の手術治療

日本では高齢化と生活習慣病による動脈硬化性疾患が増加の一途をたどっており、これに伴い心臓外科では、虚血性心疾患や心臓弁膜症、大動脈疾患における手術療法を必要とする患者さんが増えています。

虚血性心疾患・冠動脈バイパス術

虚血性心疾患ってどんな病気?

心臓の筋肉(心筋)に血液を通して酸素と栄養素を供給する「冠動脈」が動脈硬化により閉塞し、心筋に血液が十分にいきわたらず心臓が酸欠状態で機能不全になってしまう心疾患です。虚血性心疾患は日本人の死因の第2位を占めており、主に血管の内腔が狭くなって起こる「狭心症」と、完全に詰って心筋に酸素が届かず細胞が死んでしまう「心筋梗塞」があります。

治療の選択肢は?

薬物療法で症状が改善せず悪化した狭心症や心筋梗塞の治療法には、「カテーテル治療」と「冠動脈バイパス手術」があります。冠動脈の狭くなった部分(狭窄(きょうさく))を内側から広げるカテーテル治療は、局所麻酔で行うことができ、入院期間も数日で済むため、患者さんへの負担が軽いというメリットがありますが、狭窄箇所が複数あって狭窄の影響が広範囲におよぶ場合や、糖尿病などの持病で冠動脈全体の状態が悪い場合はバイパス手術が検討されます。このように治療法の選択に際しては、患者さんの希望のほか狭窄の数や持病を考慮します。

「冠動脈バイパス手術」って?

詰まった血管の代わりに血液が流れるよう、ほかの部位の血管(グラフト)を使って迂回路となる血管をつなぐ手術です。健康な血管でつくられたバイパスに血液が流れるようになるため、心臓の状態を一気に改善できます。
手術に際しては、人工心肺装置を用いて心臓を停止し、バイパスとなる血管を確実につなぐ精度の高い「心停止下冠動脈バイパス術」を基本とします。しかし、心臓以外に脳梗塞などの持病がある患者さんなど、人工心肺を使用することで脳血管障害や腎臓障害、心不全など合併症のリスクが大きいと判断される場合は、心臓の動きを止めないで行う「オフポンプ冠動脈バイパス術」を選択します。

バイパスでつながれた冠動脈

心臓弁膜症・弁形成術と弁置換術

心臓弁膜症ってどんな病気?

心臓には右心房と右心室、左心房と左心室の4つの部屋があり、右の心臓は全身に酸素を届けた後の血液(静脈血)を肺に送り、左の心臓は肺で酸素を受け取った血液(動脈血)を全身に送り出す働きを担っています。この血液の流れは常に一方向に維持されており、その役割を担うのが心臓の各部屋にある4つの弁です。

「心臓弁膜症」とは心臓の弁に異常をきたす病気で、弁の閉鎖が不完全となって逆流を起こしてしまう「閉鎖不全症」と、弁の開放が不十分となる「狭窄症」があります。いずれも血液が全身に十分届かなくなることで心不全を起こし、突然死の原因となります。
かつては細菌感染によるリウマチ熱の後遺症によって発症するリウマチ性のものが多かったのですが、近年は動脈硬化による弁膜症が増加しています。

治療の選択肢は?

心臓弁膜症を治すには手術療法しかありませんが、薬物療法で症状の緩和を目指す場合もあるなど、治療方針は病気の進行度合いと患者さんの全身状態、体力や余病などを総合的に評価して決められます。
手術療法には、壊れた弁を修復する「弁形成術」と、壊れた弁を新しい人工弁に取替える「弁置換術」があります。4つの弁の中で大きな負担がかかるのは、全身に血液を送り出す左側の心臓の「僧帽弁」と「大動脈弁」のため、治療が必要となる心臓弁膜症はこの2つの弁が中心となります。僧帽弁の場合はまず弁形成術を検討し、難しい場合は弁置換術が選択されます。大動脈弁の場合は弁形成術が難しいため、ほとんどが弁置換術となります。

「弁形成術」って?

壊れた弁を正常の機能ができるように作りかえる手術です。患者さん自身の弁膜を修復することで弁の機能を回復します。

「弁置換術」って?

壊れた弁を取り除き、人工弁に取り替える手術で、人工弁には「機械弁」と「生体弁」の2種類があります。機械弁は耐久性が高い反面、弁の周りに血栓ができやすくなるため、血液を固まりにくくする抗凝固剤(ワルファリン)を一生服用しなければなりません。一方、生体弁は耐久性に限界があるため、15〜20年で再手術が必要となる可能性が高くなりますが、抗凝固剤を服用する必要はありません。
このように、機械弁と生体弁のどちらにも長所と短所があり、一般的に若い方は機械弁、65歳〜70歳以上は生体弁を選択するという治療ガイドラインがありますが、患者さんのライフスタイルを考慮した術後の生活の質(QOL)も重要となるため、医師とよく相談して選択することが大切です。

生体弁
生体弁
機会弁
機会弁

大動脈瘤・人工血管置換術

大動脈瘤ってどんな病気?

動脈硬化が原因で近年増加しているのが「大動脈瘤」です。 大動脈瘤 とは大動脈が正常の太さの1.5倍以上の瘤(コブ)状に膨らんだもので、50〜70歳、男性が圧倒的に多いのが特徴です。近年はCTやMRなどの画像診断技術が進歩し、人間ドックなど検診の普及により発見される頻度が増えています。

治療の選択肢は?

大動脈瘤が破裂すると出血性ショックで命の危険に直面し、破裂後の救命率は10〜20%程度となります。心臓外科が扱う胸部大動脈瘤では、瘤(コブ)が5.5cm程度になるといつ破裂しても不思議でない状態と判断し、破裂予防のための手術を行うことになります。薬で動脈瘤を小さくすることはできないため、治療の選択肢は手術療法のみです。手術には「人工血管置換術」と「ステントグラフト内挿術」があり、患者さんの全身状態と動脈瘤の部位を考慮して選択します。現在当院ではステントグラフト内挿術は行っていませんが、適応する患者さんには施行施設への紹介をしています。

「人工血管置換術」って?

胸やお腹を切開して動脈瘤ができた大動脈を直接切除し、血管の代わりになる人工血管に置換えるのが「人工血管置換術」です。胸部大動脈瘤の人工血管置換術は、開胸して人工心肺装置を使用したうえで、心停止の状態で手術を行います。心機能の低下や脳梗塞など合併症のリスクがある手術ですが、手術成績は向上しています。

胸部大動脈瘤 写真
弓部全置換術 術後 写真