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心房細動の新たな治療法 ~パルスフィールドアブレーション治療~
(左)循環器内科病棟医長 中込 敏文 (右)循環器センター長 金子 鎮二
「心房細動」はそれ自体が直接的な死亡の原因にはならないものの、脳梗塞や心不全、認知症の進行にも関係する放置できない病気です。
当院ではその新たな治療の選択肢となる「パルスフィールドアブレーション治療」を導入。従来、比較的安全で身体の負担が少ないとされてきた「カテーテルアブレーション治療」よりさらに安全・安心な治療法となり、近年増加傾向にある心房細動の患者さんの治療に貢献できます。
「心房細動」とはどんな病気?
健康な人の安静時の心拍数は1分間で100以下とされています。この範囲を大きく上回る100~200程度もの頻脈となり不規則に拍動する「不整脈」の一種が「心房細動」です。加齢に伴い発生率が高くなり、高血圧や糖尿病など生活習慣病の方は発生率が高まります。
心房細動が起こると、心臓の4つの部屋のうち上2つの「心房」が収縮せず痙攣(けいれん)したような状態になります。症状として動悸や息切れなどがありますが、無症状の人もいます。また、気付いても「歳のせい」と見過ごし、そのうち症状に慣れてしまい放置する人も多く見られます。
「心房細動」は何が怖い?
「心房細動」自体は直接死に至る緊急性の高い病気ではありません。しかし、心房細動では心房が痙攣した状態となるため、心房内の血液が淀んで血の塊「血栓」ができやすくなります。できた血栓が脳の血管に飛んで詰まると「脳梗塞」を引き起こしたり、腸の血管など内臓の血管を詰まらせることもあります。
また、心房細動を長期にわたり放置し高い心拍数が続くと心臓のポンプ機能が弱まっていき、全身に十分な血液が送り出されず「心不全」になります。
ほかにも直接的な原因と断定はされていませんが、脳の血流低下や小さな血栓の詰まりなどにより、認知機能の低下や「認知症」の進行にも影響すると推測されています。
「心房細動」の治療
「心房細動」の治療には薬物療法と手術療法があります。
薬物療法 脳梗塞を予防するため血液をさらさらにする薬や心拍数をコントロールする薬を症状に応じて使用しますが、あくまで合併症予防や症状の緩和を目的とするもので、心房細動を根治する治療ではありません。
カテーテルアブレーション治療(手術療法) 近年は80歳以上の高齢の方でも、身体の状態とご本人の希望に応じて根治を目指し選択することが増えています。 手術といっても開胸する大掛かりなものではなく、カテーテルと呼ばれる細い管を太ももの付け根から挿入し、心房細動を起こしている心筋の一部を高周波や冷媒を用いて焼灼(しょうしゃく)するものです。手術自体は1~2時間程度で終了し、翌日から歩くことができて入院期間も3、4日程度です。当院では1回の手術で約8割の方が根治しますが、中には再手術が必要になる方もいます。
「心房細動」の新しい選択肢「パルスフィールドアブレーション治療」とは?
心房細動治療における「カテーテルアブレーション治療」は、基本的に安全で患者さんの負担が少ない治療ですが、治療中にカテーテルの先端が心臓の壁を傷つけて起こる「心タンポナーゼ」や近接する食道に穴が開いてしまう「左房食道ろう」といった、発生は1%にも満たない非常に稀ではあるものの生命の危機に関わる重篤な合併症を引き起こすことがあり、それだけに術者の技術も求められます。
今回当院に導入された「パルスフィールドアブレーション治療」の最大の特徴は、超高速電気パルスによる熱が発生しない「非加熱」でのカテーテルアブレーションだということです。
パルスを用いることで原因となる心筋だけを標的にすることができ、カテーテルアブレーション治療のリスクであった食道や横隔膜など他の臓器に障害を与える合併症のリスクが大幅に軽減され、より高い安全性が担保される治療法といえます。
しかも、従来の「カテーテルアブレーション治療」と同等の有効性があり、今までの「カテーテルアブレーション治療」ほど高い技術力を要しないため、従来より2割程度短縮できます。ただし、適用できるのは初めて治療を受ける患者さんで、再発された方は従来の「カテーテルアブレーション治療」となります。
パルスフィールドアブレーション イメージ動画
定期健診と症状があれば早期の受診を!
高齢化が進む中「心房細動」の患者さんは増加傾向にあります。安全性の高い心房細動の治療法ですが、症状が進行すれば治療の難易度も高くなり、再発率も高まります。早期発見のためには定期的な健診を通して発症リスクとなる生活習慣病予防に努めるとともに、家庭での「血圧測定」を習慣化することが有効です。心房細動があると血圧計に「エラー」が出るので気づくきっかけとなるとともに、近年は「心電計」の付いた血圧計もあります。 「心房細動」は誰にでも起こりうる病気です。まずは「心房細動」という病気を理解し、少しでもおかしいと思ったら速やかに循環器内科を受診してください。