DOCTOR'S INTERVIEW

がんの多くは早期発見・早期治療により、良好な予後が期待でき、治療の身体的・経済的負担も少なく済みます。しかし、がんの初期はほとんど自覚症状がなく、あっても特有の症状ではないことがほとんどのため、他の病気と見過ごしてしまいがちです。
このような状況を避け、がんを早期に発見するのに不可欠なのが「がん検診」です。しかし、当院のデータだけを見ても、コロナ禍前後で健康診断の受診者数と検診によるがんの発見件数が極端に減少していることがわかります。

豊田厚生病院 健康管理センター
受診者数の年次推移

がん発見経緯が「検診」であった件数

検診によるがんの発見件数が減少したことに関連するのが、「肺がん」の手術を受けた人がどんな経緯で肺がんが見つかったのかを、コロナ禍前後で調べたデータ結果です。
このデータで際立つのは、コロナ禍前には肺がんを「自覚症状で発見」してから手術を受ける例は全体の4％に過ぎなかったのが、コロナ禍後の2021年には21％にまで増加していることです。これに対してコロナ禍前には30％だった「市民がん検診」での発見も20％まで減少しており、早期発見につながる「がん検診」で発見できず、自覚症状が出て初めて見つかる人が急増していることがわかります。

呼吸器外科手術における肺がん発見経緯

　

「自覚症状」による肺がんの発見経緯が増加したことで起きたのが、手術時に肺がんのステージが進行しているケースが増えてきたことです。コロナ禍前はⅠ期が圧倒的に多い83％、次いでⅡ期14％、Ⅲ期3％の順となり、Ⅳ期は皆無でした。
これに対してコロナ禍後はⅠ期が64％まで減少したのに対して、Ⅱ期20％、Ⅲ期12％といずれも増加し、コロナ禍前はゼロだったⅣ期も4％みとめました。手術時にⅣ期と診断される肺がんはすでにがんが肺を破り胸の中に散らばった末期の状態といえます。
これに対して早期発見に相当するⅠ期であれば、手術でがんを摘出するだけか、少し進行した場合でも再発防止の抗がん剤を術後一定期間、追加で内服する治療で済み、仕事などに支障のない日常生活が送れます。何より５年生存率も７９％〜８８％と高い数字となっています。
一方でⅡ期以降に入ってからの手術では、肺がんを摘出してからも入院による抗がん剤治療を４回も受けなければなりません。ステージが進行するほど、治療による身体的・経済的負担は重くのしかかり、再発・転移のリスクも大きくなります。

呼吸器外科手術例における肺がん進行度

　

示してきたデータから明らかなように、コロナ禍を理由とする「受診控え」により、取り返しのつかない事態に陥ってしまった人が続出しているというのが、医療の最前線で今起きている深刻な状況です。
データは呼吸器外科で収集したものですが、この状況が他診療科、他医療機関で同様に起きていることは想像に難くありません。その背景にあるのが、がん検診や健康診断のための受診は不要不急の外出だと思っている人が少なからずいるということです。実際に当院の健診センターには、予約をキャンセルする人がかなりの数にのぼっているという現象も起きています。
しかし、がん検診や健康診断は決して不要不急ではありません。基本的に毎年受けることで初めて早期発見・早期治療の恩恵が受けられ、大切な命を守ることにつながることを改めて知ってほしいと思います。