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円形脱毛症~早期発見・早期治療で、脱毛の慢性化を防ぐ!~
左から鈴木 伸吾(皮膚科代表部長)、
榊原 あゆみ(皮膚科)、中根 啓允(皮膚科)
正常な毛の生え変わりが機能せず、多くの毛が抜けてしまうのが「脱毛症」です。代表的な脱毛症として知られるのが「円形脱毛症」ですが、早期に適切な治療をすれば、多くの場合回復が望めます。しかし、中には脱毛の範囲が大きく、長期間症状が続く難治性の円形脱毛症もあります。「いずれ自然に治る」、「髪の毛で隠せる」など軽く考え受診しないでいると、症状が悪化してしまうリスクがあります。
当院の皮膚科では、軽度の円形脱毛症はもちろん、難治性の円形脱毛症に関しても最新の治療法を提供できる体制を整えています。受診をためらううちに悪化してしまわないためにも、症状に気づいたら早期に受診し、適切な治療を受けることが大切です。
「円形脱毛症」とは「自己免疫疾患」の一つです。
「円形脱毛症」とは、病原体などから体を守るはずの「免疫」が正常に機能せず、髪の毛の元となる細胞が集まった「毛包」を攻撃し、壊してしまうことが原因で起こる病気です。なぜ、突然免疫が暴走するのか、その原因はわかっていません。ただ、感染症、精神的なストレスが誘因となる場合や、家族に発症した人がいたり、アトピー性皮膚炎や他の自己免疫性疾患がある人は、そうでない人に比べて発生しやすいというデータはあります。
円形脱毛症の原因を「ストレスからくるもの」と思っている人が多く見受けられますが、実際は「自己免疫疾患」であり、ストレスはあくまで誘因の1つです。円形脱毛症は再発することも多く、再発を繰り返すうちに重症で治療効果が得られづらい難治性の円形脱毛症に進行する場合もあります。子どもでも重症化することがあるので、軽く考えるのは禁物です。
円形脱毛症の重症度の判定
「円形脱毛症」の重症度は脱毛部の面積の割合で判定し、脱毛部の割合が頭部全体の25%以上を重症とします。
「円形脱毛症」の症状と診断
「円形脱毛症」は、脱毛の数や程度により分類されます。頭部に円形の脱毛が1つある場合を「単発型」、いくつも多発する場合を「多発型」、さらに、頭全体が脱毛する「全頭型」や全身に脱毛が及ぶ「汎発型」、頭髪の生え際が帯状に脱毛する「蛇行型」といった一般の円形脱毛のイメージとは異なるタイプもあり、これらは難治性に分類されます。
また、「円形脱毛症」には、軽く引っ張っただけで毛が抜けやすくなる「活動期(急性期)」と、症状が現れてから半年以上を経て症状が固定化してしまう「慢性期」があり、慢性期になると発毛の活動が休止した状態が続きます。「円形脱毛症」の診断にはダーモスコピーという特殊な拡大鏡を用い、抜けた毛の根元を観察することで診断と病期を判定します。
円形脱毛症のタイプ
「円形脱毛症」には以下の4つのタイプに、脱毛の範囲が全身に及ぶ「汎発型」が加わり、5つのタイプに分類されます。
「円形脱毛症」の治療
「円形脱毛症」はタイプによって適した治療法が異なってきます。他にアトピー性皮膚炎など関連する既往歴がなく、脱毛箇所が単発や少数のタイプは、1年以内に80%程度は自然に毛髪が回復するとされています。しかし、脱毛の範囲が大きい場合や、多発型、慢性化している、アトピー性皮膚炎などほかの疾患を合併しているなどは、難治性になることがあるので、症状があれば自己判断せず皮膚科を受診してください。当院で受けられる治療法は以下のとおりです。
ステロイド外用薬
1日に1、2回、患部に塗る薬です。副作用のあるステロイドですが、正しく使えば安全性の高い薬なので、年齢や範囲に関係なく最初に選択する治療法です。
ステロイド局所注射
脱毛面積が25%以下の単発型や多発型の成人で、脱毛部位に直接注射します。脱毛部位が広い場合は注射回数が多くなるため、他の治療法も検討します。注射部位の痛みや皮膚萎縮があり、痛みを伴うことから小児には行いません。
局所免疫療法(自費診療)
人工的にアレルギー性接触皮膚炎(かぶれ)を起こすSADBEという試薬(化学物質)を、1、2週間に1度通院して脱毛部位に塗ることで、免疫バランスを変化させ、毛包への攻撃を抑制するとされる治療法です。発毛を促す明確なメカニズムはわかっていませんが、日本皮膚学会の治療ガイドラインでも、年齢を問わず、頭皮にひどい湿疹がなくSADBEに対する過敏症がなければ、難治性の円形脱毛症(脱毛面積が25%以以上の多発型、全頭型、汎発型)の第一選択となる治療法として推奨されています。ただし、この治療ができる医療機関は限られているので、受診時に確認してください。
その他
急速かつ広範囲に脱毛が進む場合には、入院してステロイドを短期間大量に投与したり、ステロイドの内服薬を投与する治療法もありますが、糖尿病など特定の病気がある方は悪化する可能性があるのでその確認が必要です。
TOPICS 〜重症の円形脱毛症の治療に、保険適用の新しい飲み薬が登場〜
頭部全体の50%以上に脱毛があり、半年以上発毛がない重症の患者さんを対象に、各種の治療法で奏功しなかった場合の選択肢として、「JAK阻害薬」という飲み薬が2022年6月から保険適用になりました。これは他の自己免疫疾患にも用いられている薬で、免疫機能を抑制することで免疫の暴走を止めるものです。免疫機能が低下することで、帯状疱疹など感染症などのリスクがあり、まれに重篤な副作用が生じることがあるため悪性腫瘍などの合併がある方は適用外となりますが、脱毛範囲が縮小するなど一定の効果が報告されています。治らないとあきらめていた患者さんの福音といえるでしょう。
保険適用でも高額な治療費となりますが、助成制度を受けられる可能性もありますので、重症でお悩みの患者さんはご相談ください。
COLUMN
「ウィッグ(かつら)」で気分転換も大切です!重症の患者さんは容姿が気になり、外出や人との交流を避けてしまいがちです。そんな方は思い切って「ウィッグ」の活用を検討してはいかがでしょう。治療への影響はありませんし、病状が悪化することもありません。むしろ、頭部の保護ができ、何より精神的な安定につながります。「ウィッグ」で日常を取り戻し、外出や人との交流を楽しんでいただきたいと思います。
正しい知識を得るために日本皮膚科学会のホームページのコーナーには、脱毛症について患者さんにわかりやすく説明した「Q&Aコーナー」があります。ネット上に氾濫する誤った情報ではなく、医学的な根拠のある正しい情報ですので、円形脱毛症についての正しい理解を得ることにお役立てください。