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地域医療の真ん中に

DOCTOR'S INTERVIEW

アルツハイマー型認知症
~正しい知識に基づく予防・早期発見へ~

左から、池田 昇平(脳神経内科病棟医長)、佐藤 萌美(脳神経内科)、
糸見 百合子(脳神経内科)、冨田 稔(脳神経内科代表部長)

2022年に高齢者人口率29.1%を記録した日本の高齢化は、この先もさらなる進行が見込まれています。このまま超高齢社会が進むことで危惧されるのが、加齢を発症リスクとする認知症の増加です。推計によると2025年には高齢者の5人に1人、20%が認知症になるとされ、本人だけでなく周囲にも大きな影響を及ぼす認知症の増加は、社会的にも大きな課題となっています。
そんな中、アルツハイマー型認知症のメカニズムそのものに作用し、進行を抑制する可能性が認められた新たな治療薬が登場し、期待が寄せられています。当院の「脳神経内科」では、診断の難しいアルツハイマー型認知症を早期に発見し、適切な対応・治療につなげる取り組みを進めています。
※総人口に占める65歳以上人口の割合

認知症の3分の2を占める「アルツハイマー型認知症」

「認知症」は、さまざまな原因で認知機能が低下し、日常生活に支障が出てくる状態をいいます。認知症には原因や症状に応じていくつかの種類がありますが、認知症の半分以上を占める最も多いタイプが「アルツハイマー型認知症」です。
初期には、もの忘れなどの記憶障害や、時間・場所がわからなくなる見当識障害など、脳の働きが低下することで起こる「中核症状」が現れ、やがて中核症状との相互作用により徘徊、幻覚、暴言・暴力といった精神症状や行動障害などの「周辺症状」(BPSD)が現れるのが大きな特徴です。

種類により原因・症状が異なる認知症

「アルツハイマー型認知症」以外にも認知症には以下のような種類があり、現れる症状も異なります。そのため、認知症の診断は難しく、少しでも違和感があれば早めに受診し、早期発見につなげることが大切です。

その他の認知症

血管性認知症脳梗塞や脳出血など脳血管障害が原因となる認知症です。障害がある脳の部位によって症状が異なり、アルツハイマー型認知症が合併している場合もあります。脳血管障害の主な原因は高血圧や糖尿病など生活習慣病であることから、生活習慣病を予防することが血管性認知症の予防にもつながります。

レビー小体型認知症手足が震えたり、歩幅が小刻みになって転びやすくなるなど「パーキンソン病」と似た症状や、現実に見えないものが見える「幻視」など精神疾患にも現れる症状が特徴的です。ほかに、認知機能が良い時と悪い時が変化する認知の変動や、睡眠時に大声で叫ぶなどの異常行動などが現れる人もいます。他の病気と混同しやすく、症状の現れ方にも個人差があるため、診断が難しい認知症です。

前頭側頭型認知症思考や理性、社会性に関係する前頭葉と、感情を司る側頭葉が障害されることで発症する認知症です。言葉が出てこなくなったり、万引き、信号を無視するなど反社会的で自分本位の行動が見られ、感情の抑制がきかなくなるなど、人格・行動の変容が特徴的です。一方、もの忘れなどの認知機能障害はあまり見られません。

“発症予備軍”、軽度認知障害(MCI)って?

現在、アルツハイマー型認知症が完治する治療法はありませんが、早期発見により問題行動を抑制するなど適切な対応につなげることができます。近年アルツハイマー型認知症には、認知症になる一歩手前の段階があることがわかってきました。これを「軽度認知障害(MCI)」と呼び、発症前の予備軍として位置付けられています。MCIではもの忘れなど認知機能の低下があるものの、日常生活には支障がないため放置しがちですが、MCIの段階で適切な対応をすれば、健康な状態への回復が見込めるとされています。
MCIの確定診断は困難ですが、過度なもの忘れが気になり出したら、一度はかかりつけ医やもの忘れ外来などを受診してください。当院は地域のクリニックとの連携を密にとっていますので、必要に応じて当院への紹介もスムーズにできます。

認知症を早期発見するためには?

アルツハイマー型認知症を発症すると、脳の萎縮や血流の低下が認められるようになります。そのため診断には他の認知症との違いを確認する問診や検査とともに、脳の萎縮がわかる「MRI検査」や、脳の血流が低下しているかわかる「脳血流SPECT検査」といった画像検査が欠かせません。
これらの画像検査は、当院の健診センターの「脳ドックコース」でも受けることができます。また、2023年4月からは、MRI画像を用いたAIによる脳解析により、認知機能を評価して脳年齢を測定するなど、健常な人の認知機能低下の兆候をいち早く捉える検査を開始しました。こうした検診を定期的に受けることで、経年変化を見ながら早期発見につなげることが可能です。

「認知症予防」を意識した日常生活を!

認知症を確実に予防する方法はありませんが、発症のリスクを下げることは可能とされています。自分や家族がもしや認知症では?と思い当たることがあっても、多くの人は否定し放置しがちですが、早く気づき適切な対応を取ることで、進行を遅らせ、日常生活を長く維持できる可能性が高まります。何かおかしいと思ったら、見逃すことなくかかりつけ医やもの忘れ外来に相談し、当院での精密な検査、診断につなげてください。

TOPICS〜希望が見えてきたアルツハーマー型認知症の治療〜

「アルツハイマー型認知症」は、脳の神経細胞に「アミロイドβ」と呼ばれるたんぱく質が蓄積することにより、神経細胞が壊されて脳が萎縮してしまうのが原因とされていますが、今のところ完治につながる治療法はありません。しかし、2023年1月にアメリカで承認された治療薬は、病気のメカニズムそのものに作用し、「アミロイドβ」を除去することで、進行の抑制が期待できる新たな治療薬として注目を集めています。このように医学の進歩により、今まで治療ができなかった認知症にも、着実に治療への道が開かれてきたことは確かです。