MENUCLOSE

文字サイズ

地域医療の真ん中に

DOCTOR'S INTERVIEW

  • HOME
  • DOCTOR'S INTERVIEW
  • 早期乳がん ラジオ波焼灼療法 ~“切らない”治療でQOLを維持~

早期乳がん ラジオ波焼灼療法 ~“切らない”治療でQOLを維持~

久留宮 康浩 乳腺外科部長

久留宮 康浩 乳腺外科部長

「乳がん」は女性がかかるがんの中で最も多く、生涯で10人に1人が乳がんと診断されています。しかし、他のがんと比べて早期発見が比較的容易であり、完治が可能な数少ないがんの一つです。ただ、治療の第一選択である手術では、早期がんでも乳房の全摘もしくは部分切除を伴うため、術後に乳房の見た目が変わってしまうリスクがありました。
今回、保険適用を受け当院が導入した「早期乳がんのラジオ波焼灼療法」は、乳房を切らない治療法であり、QOLを損なうことなく根治が目指せる新しい治療の選択肢となります。

早期発見・早期治療で治るがんへ

「乳がん」の罹患者数は年間約10万人に達するほど増えており、当院も毎年200人ほど受診されています。乳がんの特徴は、30代後半から増え始めて40代後半に最初のピークを迎え、60代に再び増加する“ふたこぶラクダ”のような罹患者数の推移グラフを描くことです。それは40代と60代の乳癌の特徴が異なることによります。
乳がんは女性がかかるがんの1位を長きにわたり独走していますが、進行が遅く比較的おとなしいがんのため、ステージ0期の「非浸潤がん」※であればほぼ100%完治し、リンパ節転移がないステージⅠの早期がんでも90%以上の10年生存率が可能です。

乳がん10年生存率

乳がん10年生存率

年齢階級別疾患率

年齢階級別疾患率

「乳がん」治療の第一選択は「手術」

乳がんの治療は、早期発見であっても第一選択はがんを切除する手術となります。現在、早期がんであれば「乳房温存手術」も選択肢に入りますが、がん細胞を取りこぼさないためには相応の切除範囲が必要となり、多くのケースで乳房の変形が起こってしまいます。乳がん治療では、根治を目指しつついかに美容面を保つかが大きな課題でした。
そのため当院では、形成外科との連携により「乳房再建」の実績を積んでおり、治療後の患者さんのQOL維持に一定の成果を上げています。

乳癌手術件数(当院)

乳癌手術件数(当院)

乳房再建術数(当院)

乳房再建術数(当院)

早期乳がんへの切らない治療「ラジオ波焼灼療法」

そんな中、2023年末から日本乳がん学会の認定施設において保険適用となった新たな乳がんの治療法が「ラジオ波焼灼療法」です。対象となるのは、直径15mm以下の単発、転移のない早期乳がんのみ。全身麻酔下で電極針を腫瘍の中心に刺し、ラジオ波という電流を流して70度の熱を発生させ、がん細胞を死滅させるという治療法です。
この治療法自体は数十年前から肝臓がん治療で行われていた安全性の高いもので、今回早期乳がんに対して外科手術と同等の効果が認められ、保険適用となりました。
この治療法の最大のメリットは、乳房を切除せず形を損なうことなく治療できることであり、出血や痛み、入院期間も外科手術より少ない低侵襲な治療法といえます。
ただし、術後に組織を採取し、がんの残存が認められた場合は外科的な切除が必要になります。

ラジオ波焼灼療法イメージ図

大切な命とQOL維持のために定期的な検診を!

従来、乳がん治療を受けた患者さんの多くは、手術による乳房の全摘、部分切除によるボディイメージの変化に、大きなショックを受けてこられたと思います。
今回“切らない”乳がん治療の導入は、今後乳がん治療を受ける患者さんにとって大きな福音になることは間違いありません。
しかし、適用されるのは早期乳がんのみであり、自覚症状のない早期乳がんを発見するには「乳がん検診」が不可欠です。それにも関わらず欧米で70-80%を維持するマンモグラフィの乳がん検診率が、日本では約47.4%(2022年)と現在も低い状態が続いているのは危惧するところです。
医療の進歩により治療成果とQOLの維持の両立が可能になった今、その恩恵を受けるためにも定期的な乳がん検診を習慣付け、早期発見・早期治療につなげてください。

女性の乳がん検診受診割合(50〜69歳)

女性の乳がん検診受診割合(50〜69歳)