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地域医療の真ん中に

DOCTOR'S INTERVIEW

口腔がんの最新治療 ~新たな治療の選択肢「光免疫療法」~

歯科口腔外科代表部長 兼子 隆次

歯科口腔外科代表部長 兼子 隆次

「口腔がん」は、口の中を中心に一部顎や周辺の顔面にも発症するがんです。全身のがんの中で占める割合はわずかですが、他のがん同様、生命に関わる疾患であることに変わりなく、近年増加の一途をたどっています。さらに、食べる、飲み込む、会話するといったQOLの根幹に影響を及ぼすため、治療後のケアも重要となります。
当院の歯科口腔外科では、「口腔がん」について広く知ってもらうことで早期発見につなげるとともに、口腔がんの最新治療である「光免疫療法」を導入し、今まで治療が困難とされた患者さんの新たな選択肢となる治療に取り組んでいます。

「口腔がん」の特徴

「口腔がん」は、全がん中で占める割合が5~8%程度ですが、全体の約4割を占める「舌がん」は、近年芸能人が罹患した報道もあり、注目されるようになってきました。次いで「歯肉がん」が続きます。初期には口内炎のような症状や口の中の粘膜に白い帯状の斑点が見られ、数週間しても自然に治ることはなく周辺にしこりを伴います。
「口腔がん」への認知度が低いことと、初期には痛みもなく症状が「口内炎」や「歯周病」と似ているため、比較的知られている「舌がん」でも受診までに平均3~5か月かかるとされ、早期発見の機会を逃すことが少なくありません。罹患者は「がん年齢」と言われる40歳代後半から高齢になるほど増え、女性よりも男性にやや多く見られます。
また、口腔がんの代表的なリスク要因には「喫煙」と「飲酒」、合わない義歯や尖った歯などによる「慢性的な刺激」が挙げられ、ほかにも食生活や運動など生活習慣も影響することが指摘されています。

代表的なリスク要因

「口腔がん」の治療

「口腔がん」の治療は、患部を摘出する「手術療法」が世界的な標準治療であり、早期であれば5年生存率は90%前後と非常に高く、手術だけで治すことができます。
しかし、がんが進行しステージが上がると「化学療法」や「放射線療法」を併用した集学的治療が中心となるため、身体への負担が大きくなります。
また、手術で治癒できても口腔の機能が低下し、食事や会話などに支障をきたす場合には、機能回復のためのリハビリテーションが必要になります。当院では看護師、理学療法士、管理栄養士、言語聴覚士など多職種チームにより、治療後の患者さんの状態に応じて必要なリハビリテーションができる体制を整えています。

セルフチェック表(口腔がんの初期症状)

POINT 他のがんと違い患部を直接見ることができるため、専門医を受診すれば早期発見は容易
早期発見・早期治療であれば5年生存率は90%前後と、手術だけで治せる可能性が高い
発見が遅れれば、手術療法、化学療法、放射線療法を組み合わせた「集学的治療」が中心となるため、他の診療科との連携がスムーズにできる体制が必要
手術で治癒できても食事や会話などに支障をきたすリスクがあることから、看護師、理学療法士、管理栄養士、言語聴覚士など「多職種チーム」によるリハビリテーションが可能な環境が必要

最新治療「光免疫療法」

「光免疫療法」とは、がん細胞の表面に多く現れるたんぱく質に結合する薬剤を点滴投与し、レーザー光を照射することでがん細胞を死滅させる治療法です。2011年に米国国立衛生研究所(NIH)の日本人医師らにより開発され、2021年から国内で治療開始となり、すでに約550例の治療実績があり一定の成果を挙げています。
2023年10月から口腔がんに健康保険での治療が可能となりましたが、この治療を受けるには学会の施設認定と専門医資格が必要です。現在、口腔がんに限定すると認定施設は全国で37施設、専門医は87名です(2024年7月現在)。愛知県でこの治療が受けられる施設は限られており、当院はその一つとなります。

対象となる患者さん 切除ができない進行がんや、最初に治療したがんと同じ場所あるいは近くに現れた「局所再発」の患者さんで、手術が困難、放射線治療も適さない場合(従来の治療が受けられる場合はそちらを優先し、効果がなかった場合に「光免疫療法」が適用されます) ※上記以外にも薬剤に含まれる成分に過敏症のある方、がん病変が頸動脈まで広がっている方、妊娠・授乳中の方など、治療が受けられない方もいるので詳細は担当医師にご相談ください。

治療の流れ(入院治療) 1日目
薬剤を点滴で2時間ほどかけて投与します。
この治療は強い光を避ける必要があるため、薬剤投与中と投与後は室内を遮光します。

2日目
点滴後20~28時間後に全身麻酔下でレーザー光を照射します。
がんの部位や大きさによって、レーザー照射は体の外から当てる場合と、針を挿入して体の中から当てる場合があります。

レーザー照射

3日目
レーザー照射後の入院は1週間程度です。入院中も直射日光に当たらない環境で過ごします。

退院後
退院後も1か月程度は外出時には長袖・長ズボン、手袋、サングラス、マスク、帽子などで肌の露出を避け、直射日光が当たらないようにします。
※治療後には、治療部分の痛みや腫れ、のどのむくみなどの副作用が現れることがありますので、治療にあたっては主治医の説明をしっかり受けてください。

POINT 手術が困難でほかの治療法も適さない患者さんの新たな治療の選択肢となります。
体にメスを入れることなく治療が可能です。
放射線療法や化学療法はがん細胞だけでなく正常な細胞まで攻撃してしまうため身体にダメージを与えますが、「光免疫療法」はがん細胞だけをピンポイントで死滅させることができます。
がんの進行や症状に応じて、複数回(3回程度)治療することで治療成績をあげることができます。
治療対象となる患者さんは保険適用で治療が受けられます。

「口腔がん」から命を守るために

「口腔がん」は専門医が診察すれば、特別な検査機器がなくても早期発見しやすいがんです。しかも、早期であれば手術だけで治せる可能性が高く、生活の質を損なうリスクも最小限に抑えることができます。早期発見のためには、口の中に違和感があった際、自己判断で“見て見ぬ振り”をすることなく身近な医療機関を受診し、口腔がんの疑いがある場合は当院のように専門医と多職種連携によるアプローチが可能な医療機関を紹介してもらってください。
また、現在口腔がんで闘病中の方も「光免疫療法」という新しい治療の選択肢ができるなど、治療法は日進月歩です。決してあきらめないで正しい情報のもと主治医に相談し、納得できる治療法を選択してください。