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地域医療の真ん中に

DOCTOR'S INTERVIEW

変形性関節症・人工関節置換術

要支援・要介護の原因の一つとなる「変形性関節症」は、早期に適切な治療をすることで痛みを取り除き、支障のない日常生活を続けることが可能です。その有効な治療法として注目されているのが「人工関節置換術」です。

「変形性関節症」ってどんな病気?

「人工関節置換術」が適応される主な原因疾患は「変形性膝関節症」です。膝関節の軟骨がすり減ることで骨と骨がぶつかり、炎症による痛みが生じる疾患で、進行すれば関節が変形して歩行が困難になります。発症の原因には加齢による老化や肥満による膝への過度な負担などが挙げられ、日本整形外科学会によれば、50 歳以上の1,000 万人が変形性膝関節症による膝の痛みを経験しているとされています。股関節に同様の症状が現われる「変形性股関節症」も、「変形性膝関節症」に次いで多い「人工関節置換術」の原因疾患です。

健康寿命を脅かす「変形性関節症」

「変形性関節症」は、誰にでも罹患もしくは疑いがある疾患ですが、膝に違和感があるだけで整形外科を受診する人は多くありません。そこには「関節の病気で命が脅かされることはない」という気持ちや、日本人らしい“がまん”があるように見受けられます。 しかし、痛みに悩まされ日常生活が阻害される変形性関節症は、決して侮ってはいけません。痛みから外出がおっくうになり、関節の変形が進めば人との交流を避けて家に引きこもりがちになることから、認知症の遠因にもなるといわれています。世界有数の長寿を誇る日本人ですが、自立した生活ができる「健康寿命」と「平均寿命」との間には10 年前後の隔たりがあり(図1)、その主な原因として関節の病気が上位を占めている(図2)ことを忘れてはなりません。

「人工関節置換術」の適応

「変形性関節症」は初期の段階であれば、膝も股関節も患部への負担を減らすための減量や装具の使用、症状に合わせた「運動療法」や痛みを改善する「薬物療法」など、手術以外の「保存療法」を試みます。それでも症状が改善せず、関節の変形が著しい場合の選択肢となるのが「人工関節置換術」です。文字どおり「人工関節」を膝関節、股関節に置換える手術で、数十年前から行われてきた治療法ですが、近年「人工関節」の耐久性が著しく向上し、20年以上の維持が可能になったことから、飛躍的に手術件数が増えてきました。 当院で「人工関節置換術」を受ける患者さんの多くは60歳代後半以降ですが、基礎疾患がなく、術後に3週間程度行う屈伸や歩行などのリハビリを受ける体力がある方なら、80歳を超えても十分手術が受けられます。 「人工関節置換術」の最大のメリットは、痛みが取れ、日常生活であれば問題なく送ることができることです。膝、腰への過度な負担さえ避ければ、ゴルフやゲートボールなどのスポーツや旅行、ショッピングなど活動的な趣味も楽しめます。 また、O脚に変形した関節が真っ直ぐに戻ることから美観の点でのメリットも大きく、とりわけ女性の患者さんにはメンタル面に及ぼす効果も見逃せません。


早期診断で適切な治療法を!

術後は半年〜1年程度で定期的に検査を受け、人工関節に緩みなどの不具合が生じていないか状態を確認したり、骨粗しょう症や感染症などを発症していないか調べます。これを怠ると再手術という事態になりかねませんが、多くは一度の手術※でほぼ一生自立した生活を送ることができます。 一方で「手術が怖い」という理由から、尻込みされる患者さんも多くおられます。しかし、人生100年といわれる時代に、60歳代後半から数十年間も痛みをがまんしながら、不自由な生活をするのは決して好ましいことではありません。状態が悪化し、がまんの限界に達してから手術を決意しても、そのときには適応できない場合もあります。 膝や股関節の痛みを感じたら、できるだけ早期に痛みの原因を診断することが大切です。そのうえで専門医と相談しながら、患者さんのライフスタイルに合った最適な治療法を選択いただければと思います。

※手術は片側ずつとなるため、両膝(股)の場合は2度の手術が必要です。